4.出生直後の“低体温症”が危険な理由は何か

※ 人間(恒温動物)の自律神経機能の特性:
呼吸・循環・消化管など全ての臓器の安全を司る自律神経は、快適な環境温度、しかも人間が恒温状態の時にしか本来の機能を発揮する事が出来ない。例えば、温かい子宮(38℃)の中から寒い分娩室(25℃)に生れて来たばかりの赤ちゃんは、呼吸循環の安全性よりも出生直後の低体温症を防ぐための体温調節機構(放熱抑制+産熱亢進)を優先させる。放熱抑制と産熱亢進が遷延すると、児に非生理的な現象(初期嘔吐・低血糖症・肺高血圧症など)が発生する(下記参照)。さらに、児が何らかの理由で重度の低血糖症に陥ると自律神経は機能不全に陥り、体温調節・呼吸循環の調節も出来なくなり、やがて児は心肺停止となる。赤ちゃんの自律神経機能を正常に作動させるためには、出生直後の低体温症を防ぐために児を出来るだけ早く快適な環境温度(中性環境温度)に収容し、低体温症から恒温状態への移行を促すべきである。寒い分娩室における生後30分以内のカンガルーケア(KC)は、低体温症から恒温状態への移行を遅らせる。厚労省は出生直後のKCの中止を全国の医療機関に通達すべきである。










■低体温症の体温調節機構(産熱亢進+放熱抑制)

□産熱亢進⇒筋緊張亢進⇒酸素消費・エネルギー消費の増大⇒ 低血糖症
□放熱抑制⇒末梢血管収縮(冷え性)⇒静脈還流減少⇒各臓器の循環血流量減少
@消化管血流量減少⇒ 腸の蠕動運動低下⇒消化管機能の低下
・初期嘔吐の増加⇒哺乳障害⇒低栄養 ⇒低血糖症
・胎便排泄遅延⇒重症黄疸(Bn再吸収↑)・胎便性腸閉塞・壊死性腸炎
A肝臓血流量減少⇒糖新生抑制⇒低血糖症
B肺動脈血流量減少⇒ 肺高血圧症⇒右左シャント⇒ 呼吸障害(陥没呼吸、過呼吸、呻吟、チアノーゼ)⇒ 低酸素血症

■出生直後の低体温症(冷え性)が持続すると、児は下記のメカニズムで低酸素血症に陥り心肺停止を招く危険性が生じる。
@低体温⇒低血糖⇒自律神経機能不全⇒筋弛緩+交感神経抑制⇒低酸素血症
A低体温⇒肺動脈収縮⇒肺高血圧症⇒呼吸障害⇒低酸素血症

■低体温症が危険な理由は、生命の安全を司る自律神経が呼吸循環の安全性より、体温調節機構を優先する事である。低体温症が長引くと、児は低酸素血症・低血糖症・肺高血圧症などの合併症を引き起こす。症状が表に出ない中等度の低血糖が持続すると、脳神経発達に永久的な障害を遺す危険性が潜んでいるからである。