| 生後早期のカンガルーケアに危険信号! |
長野県立こども病院総合周産期母子センター長の中村医師は、カンガルーケアの留意点と題して、「正常産児の生後早期の母児接触中(通称カンガルーケア)に心肺蘇生を必要とした症例」を日産婦医会報(2007年1月1日発行)に発表した。
発表内容を要約すると、日本のほとんどの産科施設において正常産児のカンガルーケアが生後30分以内に行われている。ところがカンガルーケア中に、全身蒼白、筋緊張低下、徐脈(心拍数が異常に遅くなる事)、全身硬直性ケイレン、全身チアノーゼなど、心肺蘇生を必要とする危険な状態で新生児医療施設に緊急入院するケースがある。他の施設でも同様の症例が緊急入院している。「正常産児のカンガルーケア中に急変した症例」について、調査検討の予定と発表した。中村医師は生後早期のカンガルーケアの問題点として、安全性について文献的にもほとんど議論されていない。日本では正常分娩の分娩室での母子ケアについては、科学的根拠に基ずく標準的な方法が無い。カンガルーケアについて様々な側面から、その安全性についての検討が必要であると報告した。
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1.カンガルーケアについて
2.低温環境が早期新生児の体温調節・糖代謝に及ぼす影響
3.低血糖の原因と危険因子
4.低血糖はなぜ危険か
5.低血糖・低栄養・重症黄疸が脳の発育に及ぼす影響
6.自閉症スペクトラムの原因を探る
7.自閉症が急激に増えたのは何故か
8.新しい母乳育児支援策の問題点
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1.カンガルーケアについて
カンガルーケアは1970年代に南米コロンビアで低出生体重児に対する保育器不足に対して開始され、1980年代より欧米で、日本でも1990年代より新生児集中治療室(NICU)の中で行われる様になった。
ところが、厚生労働省が1993年にWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援したことも手伝って、生後30分以内のカンガルーケアが我国で急速に普及した。その背景には「母乳育児を成功させるための10カ条」の第4条に、「母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること」が謳われているからと思われる。
■生後早期のカンガルーケアはなぜ危険か?
生後30分以内のカンガルーケアが危険な理由は、(1)寒い分娩室で出生直後の体温管理を怠ると、赤ちゃんの体温下降を促進し低体温から恒温状態への回復が遅れる。(2)低温環境下では、体温調節(熱産生)のために酸素と血中グルコースの消費量が著しく増大し低血糖に陥り易い。(3)低体温では、糖新生の抑制がみられるため低血糖からの回復が遅れる。(4)生後早期の「低体温・低血糖」は、体温調節・呼吸循環機能の安全を司る自律神経系に異常が生じる。(5)動物では、生後早期の長時間の低血糖・低栄養は脳神経細胞(神経繊維の髄鞘化・樹状突起の増生・シナプス形成など)の発育に障害を来たすと報告されている。以上の(1)~(5)が児にとって危険な点である。
一方、新生児集中治療室(NICU)でのカンガルーケアが安全な理由は、(1)赤ちゃんは自律神経機能を正常に作動する事が可能な「恒温状態」に安定している。(2)栄養法が確立し、NICUスタッフは児の「低血糖・低栄養」の予防に細心の注意を払っている。(3)呼吸・循環動態が安定している。NICUでのカンガルーケアは、以上の3点が守られているから安全である。
ところで、カンガルーケアは低体温の予防に役立つとの報告があるが、それは赤ちゃんの体温が恒温状態に回復し、栄養が十分に確保され、呼吸循環動態が正常に安定している赤ちゃんに限った場合のことである。生後30分以内のカンガルーケアは、児の体温はまだ下降中であるため、低体温の予防、低体温から恒温状態への回復を促進させるだけの「保温効果」は無い。通常、出生直後の赤ちゃんの体温は生後一時間前後で最低となり約2℃~3℃の体温下降(低体温)を示し、やがて体温は緩やかに上昇し生後5時間前後に恒温状態に移行するのが一般的である。しかし、低体温の程度と恒温状態に移行するまでの所要時間は、(1)分娩室の室温、(2)保温の有無、(3)児体重、(4)筋肉の緊張度、(5)新生児仮死の有無、(6)低血糖の有無、などの保育環境や児の状態に大きく左右される。環境温度の違いが出生直後の赤ちゃんの体温低下と恒温状態への回復にどのような影響を及ぼすかについて実例を紹介する。
◎厚生労働省は「授乳・離乳の支援ガイド」の中に、母乳育児支援策として「分娩後30分以内の母子のスキンシップと授乳の援助」を推進する内容を公表した(平成19年3月14日)。「分娩後30分以内の母子のスキンシップと授乳の援助」とは、中村医師が報告した「生後30分以内のカンガルーケア」そのものであり、名称を変更しただけで内容は全く同一である。厚労省は分娩後30分以内の母子のスキンシップの安全性を検証したかどうかが今後の問題であるが、赤ちゃんの安全性よりも母乳育児支援を優先した今回の厚生労働省の発表、中村医師の貴重なアドバイスは活かされていない。
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2.低温環境が早期新生児の体温調節・糖代謝に及ぼす影響
出生直後の寒冷刺激(胎内と胎外の環境温度差)の強さは低体温の原因となるだけでなく、低血糖の程度と低血糖から正常への回復時間にも重大な影響を及ぼす。また低血糖は逆に低体温の原因にもなり、両者は互いに悪循環を形成する。「低体温⇔低血糖」が進むと、恒温動物である赤ちゃんの体温調節・呼吸循環器系に異常が発生し、中村医師が報告した心肺蘇生を必要とする危険な状態に陥る事が予測できる。

出生直後の赤ちゃんが「低体温⇔低血糖」に陥った時、(1)保温(低体温予防)をしなかった場合、(2)糖水や人工ミルクを飲ませなかった場合、(3)嘔吐のため経口的に栄養摂取が出来ない場合、(4)赤ちゃんが高インシュリン血症で生まれた場合、以上の(1)(2)(3)(4)と低体温・低血糖が同時に合併した場合に呼吸循環器系にトラブルが発生する。さらに低血糖が長時間に及んだ場合には、脳神経細胞の発育に害を与え発達障害の危険率を増す。
■低体温⇔低血糖:悪循環のメカニズム
(1)低温環境下では熱産生のために沢山の血中ブドウ糖が消費されるために低血糖に陥り易い。
(2)低体温では生命の安全を司る自律神経機能は正常に作動しない。低血糖が進んでも糖新生のためのホルモン分泌が抑制され、低血糖からの回復が遅れる。
(3)低血糖が強い場合、筋緊張は低下し筋肉運動による熱産生が抑制される。また、血管収縮による放熱を防ぐための体温調節機構が作動しないため低体温はさらに進む。この時、保温とエネルギー補給をしない限り「低体温・低血糖」からの自然回復は望めない。
実際の症例を体温調節にトラブルを生じた低血糖症の一例に示した。
■低体温⇔低血糖が、呼吸循環器系に及ぼす影響
カンガルーケア中に発生した、赤ちゃんの全身蒼白・筋緊張低下・徐脈、全身硬直性ケイレン・全身チアノーゼなどの危険な症状は、出生直後の「低体温⇔低血糖」が児の生命維持装置(呼吸・循環・ホルモン分泌、など)に異常を招いた結果と考えられる。その理由は、恒温動物である人間が低体温・低血糖に陥ると、呼吸・循環・ホルモン分泌などの生命維持装置を司る自律神経系の機能が正常に作動しないからである。
■出生直後の体温管理と母乳育児支援
出生直後の体温管理(保温)の目的は低体温・低血糖を予防するだけでなく、消化管血流量をより早期に改善する事によって、(1)吸綴反射を早める、(2)初期嘔吐を防ぎ哺乳障害をなくす、(3)胎便排出を促進し重症黄疸の発症を防ぐ、などの消化管の機能異常から赤ちゃんを守るためである。恒温動物・哺乳動物である出生直後の赤ちゃんをいかに早く恒温状態に安定させ、低血糖を未然に防ぐかが産科医の仕事である。
母乳育児支援は、「分娩後30分以内の母子のスキンシップ」から始めるのではなく、消化管機能を高める体温管理(低体温予防)から始めるべきである。何故なら、低体温では腸管の蠕動運動が少ないために胃内容物(糖水・ミルク)の胃から小腸への移動が遅れ、消化管からの栄養の吸収が出来ないからである。
精神的な母子接触の確立は、生後30分以内の接触からでは遅く、妊娠と同時に母児のスキンシップは始まっていることを妊婦さんに教えてあげるべきである。妊娠中の「母⇔児」の精神的なスキンシップの欠如が、妊婦の喫煙、食事の不摂生などの生活習慣の誤りを引き起こしている事に医療従事者は目を向け、本来の母と子の絆の重要性を指導すべきである。
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3.低血糖の原因と危険因子
1993年、厚生労働省がWHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援した事によって、母乳推進運動は全国で積極的に展開されている。しかし、その10か条の中で第4条と第6条を我国で忠実に実行すると、赤ちゃんは出生直後に低体温・低血糖に陥る危険率が増える。赤ちゃんの脳の正常発育に糖分が不可欠であることを考えると、出生直後に第4条と第6条を実行することは脳神経細胞の発育に栄養障害を招く恐れがあり危険と言わざるを得ない。
■第4条:母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること
我国の分娩室が赤ちゃんにとって快適(30℃~32℃)な室温であれば第4条は何ら問題ない。しかし、分娩室は大人に快適(24℃~26℃)な環境温度に調整されている。分娩を境とした胎内と胎外の環境温度差(約13℃)は、出生直後の赤ちゃんを一過性の低体温に至らしめるが、通常は出生から5時間前後に恒温状態に移行する。しかし、第4条(カンガルーケア)の管理法を間違えば低体温は進み恒温状態への移行を遅らせ、児の適応過程に異常を招くことになる。特に、高インシュリン血症の赤ちゃんに第4条と第6条を同時に行った場合、予期せぬ重度の低血糖症を招き、小脳に回復不能な低栄養障害を招く危険性がある。
■第6条の問題点:医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと
母乳が出生直後から十分(基礎代謝量)に出るのであれば、この第6条も何ら問題ない。しかし、赤ちゃんが正常に発育するのに必要とされる1日の基礎代謝量は50kcal/kgと教科書にあるが、出生初日の母乳分泌量は初乳が滲む程度でエネルギー源としての母乳は殆ど出ていない。特に初産婦の場合、生後3日間の母乳分泌量は基礎代謝量の半分以下である。即ち、母乳以外の糖水や人工ミルクを全く飲ませない完全母乳で哺育した場合、赤ちゃんは真に飢餓状態である。新生児早期の低血糖、極度の体重減少、脱水、乏尿、飢餓熱、重症黄疸などは、児の摂取カロリーが基礎代謝量に満たない低栄養が原因で発症する場合が殆どである。即ち、生理的と考えられているそれらの現象の一部は、保育管理の間違いによって発症した非生理的な現象である。
■胎児・高インシュリン血症(妊娠糖尿病)の増加
妊娠糖尿病の母親から生まれる新生児(糖尿病母体児)の30~40%で、生後1~2時間後に低血糖を起こすと報告されている。この低血糖のメカニズムは母体の高血糖が胎児に移行するために胎児膵臓は過形成され、インスリン分泌が亢進しているからである。高インスリン血症の赤ちゃんは、臍帯切断と同時に血糖値は低下するが、生後30分以内のカンガルーケアと完全母乳(糖水/人工乳をのませない)で管理を行なった場合に、重度の低血糖症に陥る危険率は極めて高い。市立島田市民病院小児科の後藤医師は、インスリン値が4μU/mL前後に低下・安定するまでは、血糖測定を怠らない方が安全と報告している。当院で経膣分娩で生まれた145人の臍帯血インスリン値は4μU/mL以上は20人(14%)であった。対象の145人に妊娠糖尿病と診断された妊婦は含まれていない。インスリン値が4μU/mL 以上であった妊婦の特徴は、夕食後のデザート(果物・アイスクリーム・ケーキ、など)を習慣的に食べる妊婦さんに多く見られた。高インスリン血症の赤ちゃんは妊娠糖尿病・肥満児だけでなく、それ以外にも予想以上に多いと考えられる。糖水・人工乳を全く飲ませない完全母乳だけの赤ちゃんには、低血糖予防に厳重な保育管理が必要である。
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4.低血糖はなぜ危険か
発達障害の危険因子として難産(新生児仮死)、重症黄疸(高ビリルビン血症)、低血糖症が一般にも知られているが、最も警戒すべきは低血糖症である。その訳は、新生児仮死・重症黄疸は異常所見が肉眼的に外から見えるために早期診断・早期治療が可能である。しかし、低血糖は血糖検査をしない限り診断がつかないために、生後数時間の低血糖が見逃されている可能性がある。分娩時の低酸素血症、重症黄疸に対しての診断・治療は確立されたが、正常成熟新生児に対して血糖検査をする産科施設は一部を除きほとんど無い。そのため低血糖が発達障害の原因であったとしても、血糖検査が行なわれていないために原因不明の発達障害として診断・分類されていると考えられる。出生直後の低血糖が危険な理由は、低血糖の診断が遅れ低血糖状態が続いた場合に、脳に回復不能な障害を遺す危険性があるからである。低血糖が脳に悪い事が分かっているにもかかわらず、出生直後の低血糖に対する予防策は全く進んでいない。その理由は、低血糖による脳障害は生後2~3年経たないと異常に気づかないためと考えられる。
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5.低血糖・低栄養・重症黄疸が脳の発育に及ぼす影響
■低血糖
Cornblath(1976年)は健康成熟児の血糖値は生後急激に下降し、生後4~6時間では45~60mg/dlに安定するとしているが、2~3%のものが30mg/dl以下の低血糖状態となり、また低体温が認められた症例ではさらに低血糖症状が増加することを発表している。さらに血糖値が25~35㎎/dlの中等度の低血糖症でも脳に障害を招き得ることを指摘し、血糖値を40㎎/dl以上に保つことが重要であると報告している(Neonatal
Care 1996 Vol9 No3(223)新生児低血糖症と臨床、より引用)。
■低栄養
Winick(1969年)やLew.s P.D(1990年)は、出生後早期に動物を低栄養にした場合に、脳にどの様な変化が生じるかを報告した。動物実験の結果は、(1)出生後、早期に動物を低栄養にさらすと脳への影響は大きく、栄養学的リハビリテーションによっても回復する可能性が低い。(2)離乳後であれば影響の程度は少なく、低栄養後の栄養学的リハビリテーションによって回復しうる可能性が高い。(3)低栄養は神経細胞間のネットワーク形成を阻害する。(4)低栄養の影響が顕著に現れるのは、神経細胞の増殖が盛んな部位で、栄養学的リハビリテーションによっても細胞数の減少が持続する。(5)グリア細胞は低栄養に敏感に反応し、髄鞘化の遅延・脳重量の減少がみられるが、これは中枢神経系の機能に影響を与える可能性がある。(6)神経伝達物質の産生が一過性に低下する、などの点が明らかにされている。(超低出生体重児の栄養と発達予後Neonatal Care Vol,13No,1
2000より引用)。
■重症黄疸
誕生まもなく赤ちゃんは血液中に黄色い色素(ビリルビン)が多くなって黄疸になる。この黄疸が強くなると脳が障害される。モデル動物では生後7日前後に黄疸があると小脳が発育しないことが分かった。生後7日前後にビリルビンが小脳に侵入すると、神経細胞の分裂停止、タンパク質量の低下、呼吸反応の低下、脂質の蓄積、神経伝達物質の減少などを起こして発育がほとんど停止する。人でも新生児黄疸が強いと、モデル動物と同じようにビリルビンが脳に侵入し神経細胞が障害されて脳の発育が悪くなると考えられる。人でも脳がビリルビンに強く影響される時期には特に注意して黄疸を軽くする必要がある。愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所の研究成果より。
◎脳の成熟と発達障害:教科書ではヒトの脳は妊娠早期に発生し、妊娠10カ月間で著しい成熟を示し形態学的にほぼ完成する。脳の発生と同時に、神経繊維の髄鞘化・樹状突起の増生・シナプス形成が進み機能的な発達が見られる。神経線維の髄鞘化とは、神経繊維に皮が被ることであり、これによって神経伝導速度が早くなる。樹状突起の増生・シナプス形成とは、神経線維が突起を出してネットワークを組むことである。これらの神経線維の発達によって、人間としての複雑な行動や学習が可能となる事がこれまでの研究で分かっている。
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6.自閉症スペクトラムの原因を探る
我国の周産期医療は目覚しい進歩をしたと報告されている。しかし、近年の発達障害児とりわけ自閉症スペクトラムの異常なほどの増加に対する周産期側の反応は鈍い。自閉症は精神科医、小児科医、生理学者が中心となって原因解明に向け研究が進められているが、周産期側からの疫学調査・研究はほとんど見当たらない。その訳は、自閉症は先天的な脳の機能障害であり、多くの遺伝的因子が関与していると報告されているからだと考えられる。しかし、自閉症スペクトラムに関するこれまでの疫学調査は、遺伝因子だけでなく「低血糖説」を支持する内容が数多く報告されている。我国では1990年代後半から自閉症スペクトラムが異常に増加しているが、その増加率の早さから自閉症の原因を先天的な遺伝因子だけで説明することは困難である。自閉症患者は診断基準の変更をきっかけに増加しているという米国の調査もある。しかし福岡市の発達障害児数の推移が、1994(日本語版1995)DSM-4改訂後も著しく増えていることから周産期側からの調査研究も必要と思われる。
■自閉症スペクトラムの疫学調査
(1)自閉症の出生体重分布は、低出生体重児に少なく正常成熟児に多いと報告されている。低出生体重児は出生直後に温かい保育器内に入れ低体温と低血糖に注意し管理する。一方、正常成熟児は保育器に入らず、生後30分以内に寒い分娩室で母乳を吸わせるだけで、血糖検査をする施設は殆ど無い。即ち、出生体重2500グラムを境にした両群の保育管理の違いの中に、自閉症の原因が潜んでいる可能性がある。
自閉症、精神遅滞、肢体不自由児の出生時の体重分布は、2500グラム以下の発生率は、○自閉症:7/149人(4.7%)○精神遅滞:84/476人(17.6%)○肢体不自由児:57/146人(39%)と報告されている。自閉症は他の発達障害児に比べ正常成熟児に多い点が特徴である。参考文献:鷲見聡、自閉症の発生率と出生体重分布、小児の精神と神経 31巻、1991
(2)自閉症(カルフォルニアの資料)は1980年頃から急激に増え始めているが、この時期は世界で母乳促進運動(母乳以外の糖水・人工ミルクを飲ませない)がスタートした時期(1974年)である。日本(福岡市の資料)では、1995年代以降急激に増加している。この時期は厚生労働省がWHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援し、生後30分以内のカンガルーケアが急速に普及し始めた時期(1993年)とほぼ重なる点に注目。カルフォルニアと福岡市で発症時期に約15年の差があるが、これは母乳促進運動を始めた時期の違いと考えられる。


(3)自閉症は米国の精神科医カナーによって最初(1943年)に報告された。彼は自閉症の親に共通した特徴として「自閉症は裕福な家庭に多い」を挙げている。戦時中にもかかわらず一部の上層階級の人達の豊かな食生活は、現代の妊娠糖尿病(胎児の高インシュリン血症)をつくり、児は出生直後に低血糖に陥っていた可能性を示唆しているのである。

(4)テンカンの治療薬であるバルプロ酸ナトリウム(デパケン)は自閉症の危険因子として知られている。妊娠中にデパケンを服用していた患者さんから産まれた兄弟3人がみな自閉症であったという報告がある。デパケンは副作用として新生児に低血糖を引き起こすと薬効に記載されている。
(5)妊娠中にサリドマイドを服用した妊婦さんから生まれた児の約5%が自閉症であり、一般の自閉症出現率の約30倍であると報告されている。サリドマイドは強い血管収縮作用を有していることから、胎児期の脳血流障害が脳神経細胞に栄養障害を来たし、発達障害を招いたと考えられる。
(6)自閉症は、兄弟内発生・双子・男児・40歳以上の父親に多く発症すると報告されている。この調査結果から、自閉症は遺伝性疾患と考える意見が主流を占めている。しかし、これらの因子は遺伝だけでなく食生活習慣(胎児の高インシュリン血症⇒低血糖)とも深く関与している。
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7.自閉症が急激に増えたのは何故か
自閉症は1980年代終盤から1990年代にかけて劇的に増加したが、その時期はMMR(混合ワクチン:麻疹・おたふくかぜ・風疹)の導入時期と重なることから、「MMRが自閉症の原因である」との説が発表された。しかし、横浜市総合リハビリテーションセンターの本田,清水らは横浜市港北区で9年にわたる詳細な自閉症発症に関する調査をした。MMR中止によっても自閉症は減らなかったとして、「MMRと自閉症は無関係」と報告した。
ところで、日本で自閉症が急激に増え始めた時期は、厚生労働省がWHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10カ条」を後援した時期(1993年)と重なる点にも目を向けるべきと思われる。特に、この10年の自閉症スペクトラムの急激な増加は、完全母乳だけでなく「生後30分以内のカンガルーケア」が急速に普及した時期と重なっているからである。特に我国では、「赤ちゃんは3日分の水筒と弁当を持って生まれてくるから、その期間は糖水・人工ミルクは飲ませない」という指導が流行った時期でもある。
■完全母乳栄養へのこだわり
この20年、日本で完全母乳栄養が急速に普及した。その理由は、「母乳の長所」だけが国民に報道され、糖水・人工乳を飲ませたくないという風潮を妊婦に刷り込んでしまったからとも考えられる。完全母乳の短所を教えてくれる人はいない。完全母乳の短所とは、(1)出生初日は母乳は殆ど出ていない。母乳だけでは、生後3日間の赤ちゃんは真に低栄養状態である。出生直後からの体重減少が著しいのは栄養が著しく不足しているからである。(2)赤ちゃんの黄疸は生理的と考えられているが、治療を要する重症黄疸のほとんどは低栄養が原因である。(3)早期新生児の低血糖・低栄養・重症黄疸は発達障害の危険因子である。などの完全母乳の短所が国民に全く知らされていない。(4)人工乳は乳幼児突然死(SIDS)の危険因子であるかの様な内容が母子健康手帳に記載してある。これも完全母乳を促進させる要因となっている。尚、米国では人工乳はSIDSの危険因子に認定されていない。
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8.新しい母乳育児支援策の問題点
生後早期の低血糖が発達障害の危険因子であることが医学的常識であるにもかかわらず、正常成熟新生児において低血糖を予防する対策は全く進んでいない。それどころか「低体温・低血糖・低栄養・重症黄疸」を促進させる「母乳育児を成功させるための10カ条」が、今わが国で積極的に進められている。
近年、発達障害児(自閉症スペクトラム)の急激な増加は、生後早期の低血糖が原因と思われる疫学調査を先に紹介した。例えば、自閉症は正常成熟児に多く低出生体重児に少ない点である。低出生体重児は出生直後に保育器に入れ低体温と低血糖に注意し管理するが、正常成熟児ではカンガルーケアと完全母乳栄養法が主流になりつつある。この管理の違いの中に、自閉症の原因を解明する糸口が隠されている様な気がする。もし自閉症の原因が遺伝性ではなく後天的な疾病であることが明らかになれば、自閉症の子供さんをもつ両親に次の赤ちゃんを安心して妊娠出産して頂くことが可能になる。
厚生労働省は母乳育児支援にこだわっているが、大事なことは母乳か人工乳かではなく、栄養は足りているかどうか、先ず赤ちゃんの健康状態にこだわるべきである。低出生体重児が元気に育つ様になった成功の秘密は、出生直後からの体温管理と栄養管理に注意が払われたからである。今の日本には正常に生まれた赤ちゃんが異常にならない様にするための予防医学の概念はない。低出生体重児も正常成熟児も温かい子宮の中から寒い分娩室に裸で生まれてきたことには、何ら相違はない。体重2500g以上・正常に生まれたから、などの理由で、出生直後の最もエネルギー消費量が多い時期に自然のままに管理することが児にとって安全かどうかを再検討すべきである。体重2500gの線引きは主に統計学的な処理のためであり、低出生体重児と正常成熟児の保育管理の方法を変えるためにあるのではない。
出生直後の新生児管理に「予防医学」の道が開かれる事を願っているのは低出生体重児だけでなく、正常に生まれた2500g以上の赤ちゃんである。我国では産科医不足が深刻な社会問題になっているが、今こそお産の現場に予防医学の導入が必要と考える。「正常をより正常に」の発想が出生直後の赤ちゃんの保育管理に導入されれば、産科医としてこの上ない喜びである。
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久保田産婦人科麻酔科医院
院長 久保田史郎
平成19年3月27日 |
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