哺育法の違いが赤ちゃんの体重発育に及ぼす影響
 新生児早期の体温管理(保温)と生後1時間目からの超早期経口栄養法が、その後の児の発育にいかなる影響をおよぼすのかを調べる目的で、当院独自の体重発育曲線を作成し、今日、我国の日常臨床で用いられているDancisの体重発育曲線と比較しその違いについて検討しました。

 体重発育曲線について
 図1はDancis(1948年)らによって作成された出生体重2500g未満の体重発育曲線です。大きい赤ちゃんほど出生時体重への復帰日数が早く、体重減少率が少ないのが特長です。

 図2は当院(1998年)の発育曲線です。児を250g単位で体重別に群別し、生後0日から6日目までは毎日の平均体重を、続く30日目までは一ヶ月健診時での平均体重を線で結び作成しました。

 Dancis(図1)と久保田(図2)が作成した両群の体重発育曲線とを比較すると、生下時体重が2000g〜2500gの範囲では、図3に示したように体重減少率と生下時体重への復帰日数に明らかな違いが認められました。2000gの児の生下体重への復帰日数はDancisの曲線では11日目、当院では2日目で9日間の違いがあり、さらに当院の発育曲線では小さい群ほど体重発育がより早くなる傾向が認められました。この両群の発育速度の違いは発育曲線が作成された時代背景、つまり環境温度や栄養法などの哺育法の違いが赤ちゃんの発育に大きく影響しているものと推察されます。

 図4は、当院で出生した満期産児4984名(生下体重2000〜4000g)を体重別に500g単位で4つのグループに分け、体重発育の違いについて検討しました。その結果もDancisの曲線とは異なり、当院では小さい体重群ほど体重減少率が少なく、生下時体重への復帰日数も早い事がわかりました。
 
Dancisと当院(久保田)の体重発育曲線の比較検討から、出産体重別の発育方向に根本的な違いが認められました。すなわち、Dancisの体重発育曲線では、児のその後の発育は生後日数とともに拡散し、当院の曲線では収束するという相反する結果が認められたのです。この体重発育様式の違いこそが、Dancisの発表後から約50年間における新生児の栄養学や生理学を基盤とした”臨床医学の進歩”そのものであると考えられるのです。
 小さい赤ちゃんがより早く大きい赤ちゃんに追いつく事が、生理的に正常であるか否かについて、新生児科医や産科医そして生理学者を交え多いに論議し科学的に検証されるべき時代が来たと思われます。我国では平成6年に厚生省心身障害者研究班より1500g以下の極少低出生体重児についての体重増加曲線が発表されました。しかし、正常成熟児についての体重別の体重発育曲線は未だに発表されていないために、Dancisの体重発育曲線が日常臨床の多くの現場において体重発育の指標として用いられているのです。50年前のアメリカの資料が、今日の我国の医療現場で参考にされていることこそが、各施設で栄養管理の違いを生み出し、とくに新生児早期の母乳が満足に分泌されるまでのカロリー不足をどう補うかの判断を誤らせ、各施設における保健指導や栄養管理法の違いを招いているのではないでしょうか?・・・。出生後の生理的と考えられている体重減少の程度や光線療法などの治療を要する重症黄疸などの発生率が産科施設によって著しく異なっている事を多くの妊産婦の方々が知る由もありません。新生児早期の哺育法の違いが、その後の児の成長発育過程に大きく影響している可能性があることを、我々医療従事者だけではなくお母様方も正しく認識されておくことが必要です。