児童虐待を防ぐために産科医からの提言
 

はじめに
近年、日本では発達障害児の増加に伴い、児童虐待が驚異的に増えています。平成28年8月4日の『児童虐待10万件超す 15年度、25年連続増加』の報道、とくに児童虐待の年次推移は、発達障害の研究(原因究明・予防策)を周産期側から長年やってきた私にとって衝撃的なニュースでした。何故ならば、児童虐待と発達障害は、日本で母乳育児推進運動(完全母乳・カンガルーケア)が始まった時期に一致して驚異的に増えていたからです(図1・図2)。発達障害と児童虐待は母乳育児推進運動がスタートして数年後から増え始め、それ以前には社会問題になっていなかったことから推察すると、昨今の児童虐待の急激な増加は発達障害児の増加によって惹起されたと考えられます。では、発達障害は完全母乳哺育がスタートしてから、なぜ急激に増え出したのでしょうか。

私は、日本の寒い分娩室(約25度)での出生直後からの『カンガルーケア』と母乳が出ていない時の『完全母乳』が新生児を低体温症と飢餓(低栄養+脱水)に陥らせ、脳に障害を遺す新生児低血糖症・重症黄疸・高Na血症性脱水などを引き起こしたことが発達障害を増やした一番の要因と考えます。NICUで管理された低出生体重児(2500g以下)には発達障害は増えていないからです。NICUでは低出生体重児の体温管理(低体温の予防)と栄養管理(低血糖・飢餓の予防)が科学的根拠に基づいて厳重に行われているからです。私は、1983年の開業以来、当院で出生した約15.000人の早期新生児(生後1週間)の体重発育曲線と重症黄疸の発症率に関する臨床成績から、厚労省と医学会が推奨する現行の出生直後からのカンガルーケアと母乳が出ていないときの完全母乳を見直せば、発達障害は激減すると確信します。
厚労省と医学会が母子の『愛着形成』と『母乳育児』を目的に推奨した「完全母乳哺育」と「カンガルーケア」は、児童虐待防止法の定義によれば『ネグレクト』に相当します。その理由は、母乳が出ていない時(生後数日間)の完全母乳は『子どもの心身の正常な発達を妨げる著しい減食に相当』し、出生直後からのカンガルーケアは『寒い部屋での長時間の放置に相当』するからです。
今回、私は医師として児童虐待防止法に従い、関係者の皆様に、発達障害と児童虐待を予防することを目的に、「発達障害の原因と予防策」・「出生直後からのカンガルーケアと完全母乳の危険性」について報告します。尚、ここで述べる内容は、2005年発行の『臨床体温誌』に、環境温度が赤ちゃんの体温調節機構に及ぼす影響についてー赤ちゃんを発達障害・SIDSから守るためにーと題して報告しています(資料1)。発達障害の原因と予防策を周産期側から、また乳幼児突然死症候群(SIDS)の発症メカニズムを環境温度に焦点をあて、体温調節機構の面から研究した世界ではじめての医学論文です。厚労省・日本SIDS学会・産科医療補償制度(原因析委員会)は久保田のSIDSの病態解明に関する研究を評価しませんが、Yahoo アメリカで「SIDS Mechanism」で検索すると、日本産婦人科学会福岡地方部会(1999年)・第8回日本SIDS学会(2002年)・日本新生児学会(2003年)などで、私が発表したMechanism of SIDS:のシェーマがトップに紹介されています。私のこれまでの研究が、発達障害と児童虐待の防止、SIDSの防止策、周産期医学の見直しに役立てば幸いです。『臨床体温誌』は、久保田産婦人科のHPに掲載しています。

緊急提言
 
発達障害・児童虐待を防ぐ為の周産期(産科)側からの提言 
私は、1983年の開業以来34年間、早期新生児の低体温症・低血糖症・重症黄疸・飢餓(低栄養+脱水)を防ぐための先制医療(保温+超早期混合栄養法)を行い、原因不明の脳障害(発達障害)を防いできました。現在、日本で常識となった寒い分娩室でのカンガルーケア(早期母子接触)および母乳が出ない時期(生後3日間)の完全母乳は、児童虐待防止法の定義によれば、児童虐待のネグレクトに相当します。特に、「赤ちゃんに優しい病院」で生まれる赤ちゃんは、母乳が出ていなくても適切な栄養を飲ませて貰えず、飢餓状態(低栄養+脱水)に陥っています。飢餓は、発達障害の危険因子である低血糖症・重症黄疸・高Na血症性脱水症を惹起します。日本で驚異的に増え続ける発達障害・児童虐待(ネグレクト)の増加に歯止めを掛ける為に、国(行政)は全ての新生児が、出生直後の体温管理(保温)と母乳が出ない時期の栄養管理(飢餓の予防)が適切に行われているかどうかの調査をされる事を要望します。
<要旨>
児童虐待は発達障害児の発生数を減らすことによって予防できる。
2 発達障害は先天的な脳障害・ワクチン・母親の愛情不足・教育問題などではない。
3 発達障害の原因(危険因子)は、生後数日間の飢餓(著しい体重減少)による新生児低血糖症・重症黄疸・高Na血症性脱水と推察する。1993年のカンガルーケア導入後に、日本で発達障害が驚異的に増えたのは、寒い分娩室で体温管理(保温)を怠り、新生児を低体温症に陥らせ、肺高血圧症(チアノーゼ)・低血糖症を増やしたからである。
4 現代産科学は発達障害の危険因子である飢餓(低栄養+脱水)の予防を怠っている。 
5 上記の発達障害の危険因子は、久保田式の新生児管理法(生後2時間の保温+超早期混合栄養法)で、ほぼ100%防止出来る。 
6 発達障害児は重症黄疸の治療(光線療法)が多い分娩施設に集中していると考えられる。厚労省は重症黄疸と発達障害の関連性について調査すべきである。 
   
 発達障害・児童虐待防止策として7項目を提言
産科医・助産師は、出生直後の低体温症と早期新生児期(生後1週間)の飢餓(低栄養+脱水)の防止に努める 
母乳が出ていない時期には、完全母乳ではなく混合栄養(母乳+人工乳)を推奨する 
飢餓を防ぐために科学的根拠に基づいた生理的体重減少の定義を設ける 
正期産児の出生時からの毎日の体重発育曲線(日本版)を作成し、母子手帳に掲載 
赤ちゃんの「3日分の水筒と弁当」説は間違いであることを、全ての助産師に通達する(日本の赤ちゃんは、この3日分の水筒と弁当説の犠牲(飢餓)になっている) 
厚労省は、出生直後のカンガルーケア・完全母乳を積極的に実践する「赤ちゃんに優しい病院(BFH)」の認定制度を直ちに中止する(BFHには飢餓の赤ちゃんが多い) 
現代産科学教科書の見直し、間違いを改訂する 
  ・出生時からの2℃~3℃の体温下降は生理的体温低下ではなく、体温管理(保温)が必要な病的な『低体温症』である(最重要).
 ・SIDSの定義を見直す(SIDSは原因不明の病気ではない、SIDSの危険因子から人工ミルクを削除する、SIDSの危険因子に “着せ過ぎに注意”を追加する)

特に、寒い分娩室(約25℃)における出生直後のカンガルーケア(早期母子接触)と生後5日間の完全母乳は、新生児を低体温症および飢餓(低血糖症・重症黄疸・脱水)に陥らせます。児童虐待防止法では、新生児を低体温症・飢餓(著しい体重減少)に陥らせ、子どもの心身の正常な発達を妨げる医療行為は児童虐待(ネグレクト)に相当すると定義されています。
上記 7項目を導入する事によって、早期新生児(生後1週間)に対する『虐待』を予防します。また発達障害を防ぐことによって、家庭内・学校・社会などでの児童虐待(被害者・加害者)の増加に歯止めを掛けます。昨今の児童虐待の驚異的な増加は、分娩施設での新生児管理の設計ミス(完全母乳・カンガルーケアを導入したこと)によって引き起こされています。日本で母乳育児推進運動が始まった1993年以前の日本の伝統的な新生児管理法に戻らなければ発達障害児の増加に歯止めを掛ける事が出来ません。昔の産婆さんは、なぜ産湯に入れていたのか、なぜ人工ミルクを飲ませていたのか、昔の産婆さんと現代の助産師の新生児管理法は全く違います。産婆さんは、産湯と乳母(もらい乳)で赤ちゃんを低体温と飢餓(低栄養・脱水)から守っていたのです。周産期医療を見直さなければ、日本は崩壊します。 
平成28年10月吉日
久保田史郎

 発達障害及び児童虐待防止策について
 
<目次>
1.発達障害・児童虐待を防ぐために
(1)発達障害は児童虐待のリスク・ファクター
(2)発達障害は低出生体重児ではなく、2500g以の正期産児に多い
(3)日本の赤ちゃんは「寒さ」と「飢え」の犠牲に!
2.発達障害は先天的な遺伝性疾患ではない
3. 完全母乳哺育の危険性
(1)早期新生児にとって「完全母乳哺育」は児童虐待(ネグレクト)に相当する
(2)重症黄疸は発達障害・難聴の危険因子
4.飢餓は発達障害の危険因子
5.「赤ちゃんに優しい病院(BFH)」では、児童虐待(ネグレクト)が繰り返されている
(1)児童虐待防止法について
(2)母乳が出ていないときの完全母乳哺育はネグレクトに相当する(実例を紹介)
(3)厚労省は赤ちゃんに “危険な病院” をなぜ後援するのか
新生児科・産科医スタッフ各位殿―研修医の先生方へのお願いー(資料●)
6.完全母乳哺育の落とし穴
7.寒い分娩室でのカンガルーケア(早期母子接触)は児童虐待に相当する
(1)日本の分娩室は、赤ちゃんには寒過ぎる
(2)カンガルーケア中の心肺停止事故は生直後の “寒冷刺激” が引き金
(3)カンガルーケア中の心肺停止事故は「赤ちゃんに優しい病院(BFH)」に集中
8.厚労省が医療機関(分娩施設)における児童(新生児)虐待を見逃す理由
9.カンガルーケア中の心肺停止事故は、原因不明のSIDS/ALTEではない  
(1)産科医療補償制度(原因分析委員会)に敢えて反対意見を述べる理由
(2)SIDSは “着せ過ぎ” によるうつ熱(アドレナリン↓=末梢血管拡張)が原因
(3)産科医療補償制度の原因分析報告書が裁判(判決)に与える影響
(4)SIDSの定義(原因不明の病気)を見直さない限り、日本の医療は後退する
10.日本で発達障害・医療的ケア児が急激に増えた理由は、完全母乳・カンガルーケアを無責任に推奨した厚生労働省と医学会の責任
11.私が、『カンガルーケアと完全母乳で赤ちゃんが危ない』を発刊した理由
(1)現代産科学には、子供の病気(脳障害)を防ぐ予防医学が欠如している
(2)厚労省・医学会にとって『迷惑な本』
12.信用をなくした日本産婦人科医会
(1) カンガルーケア(早期母子接触)の長所に、『体温上昇作用がある』は “噓”
(2)寒い分娩室でのカンガルーケアは心肺停止事故が起こって当たり前
日本の分娩室は寒過ぎる
カンガルーケア裁判は、やり直しを!
(3)『早期母子接触実施の留意点』の危険性
(4)学会が早期母子接触は「出来るだけ早期に開始する」にこだわる理由
(5)カンガルーケア(早期母子接触)中の心肺停止事故(脳性麻痺)が相次ぐ理由
13.日本助産師会の問題点
(1)完全母乳哺育のブランド化に、歯止めを!
(2)母乳が出ないからと言って人工ミルクを飲ませる事は“犯罪”
(3)人工ミルクは赤ちゃんを発達障害から守るワクチン
14.人工ミルク、販売促進法の厳格化を 国連が利用拡大に警鐘
(1)AFPBBNews 2016年05月10日 12:15 発信地:ジュネーブ/スイス
(2)国連の『人工ミルク、販売促進法の厳格化』に対する久保田の意見
国連は、胎児の “高インスリン血症”の存在を見逃している
国連は、早期新生児(生後1週間)の飢餓の危険性を見逃している
WHO/ユニセフの「母乳育児を成功させるための10か条」 の危険性
15.日本の赤ちゃんは、『3日分の水筒と弁当説』の犠牲に
16.欧米では人工ミルク・液体ミルクを飲ませるのは常識
17.おわりに
日本の周産期医療の問題点は、厚労省が完全母乳哺育を推奨したことで早期新生児を飢餓(著しい体重減少)に陥らせたことです。また、医師・助産師がそれを生理的体重減少と考え、子どもの心身の正常な発達に障害を遺す病気(新生児低血糖症・重症黄疸・高Na血症性脱水)を予防しなかったことは医学的に重大な過失です。先進国日本において、早期新生児の飢餓(低栄養+脱水)を予防しなかった事は、厚労省の児童虐待(ネグレクト)の定義 『心身の発達を妨げるような著しい減食』・『適切な食事を与えない』に相当します。
私は児童虐待防止法に基づき、医療現場において新生児への虐待が見逃されている現実を行政に報告する義務があると考え、資料を添え提言書をお届けします。日本の周産期医療の常識を根本的に見直し、助産師教育の見直しを急がなければ発達障害児・児童虐待はさらに増えると断言します。発達障害は日本だけではなく、他の先進国にとっても重大な問題です。発達障害の原因と予防策を世界に広める事は、医師としての当然の使命と考えます。
 久保田史郎

 
 

 

高インスリン血症で低血糖症を引き起こした事例

PDFで事例紹介

事例番号:260155 産科医療補償制度より