低血糖症の原因


早期新生児の低血糖症の危険因子には、①胎児の高インシュリン血症、②血中ブドウ糖が大量に消費された場合、③肝グリコーゲン分解(糖新生)が著しく阻害された場合、④初期嘔吐や完全母乳のためにカロリーが十分に摂取できない場合、以上の4項目が低血糖を促進する危険因子として注意しなければなりません。


■早期新生児の低血糖症の原因(危険因子)
①糖尿病・糖分の摂り過ぎ:膵臓過形成(高インシュリン血症)⇒低血糖
②低体温:産熱亢進⇒血中ブドウ糖の消費量を増大⇒低血糖
③低体温:末梢血管収縮⇒肝血流減少⇒肝グリコーゲン分解抑制⇒低血糖
④低体温:末梢血管収縮⇒初期嘔吐⇒哺乳障害⇒栄養不足⇒低血糖
⑤完全母乳:生後3日間、糖水や人工乳を飲ませない⇒低栄養⇒低血糖
⑥低出生体重児:低体温+肝グリコーゲン貯蔵↓⇒糖新生↓⇒低血糖
⑦薬剤(デパケン):肝障害⇒糖新生抑制(?)⇒低血糖

上記の7項目が低血糖症の危険因子です。特に、出生直後の低体温は複数の因子と関連して低血糖を促進することから、低血糖症の予防には出生直後の体温管理(保温)が最も重要です。また、(1)高インシュリン血症児は妊娠糖尿病(肥満妊婦)に多い事が分っていますが、妊娠糖尿病の母親からだけでなく食後のデザート(果物、アイスクリーム、ケーキなど)を食べ過ぎた正常の妊婦さんからも多く生まれる事が当院の調べで分りました。正常妊婦(120人)からの高インシュリン血症児(20人)の発生率は約16%(20/120人)でした。子宮内の胎児が高インシュリン血症になり易い理由は、温かい子宮内ではカロリー消費が極めて少ない事、胎児は1日の中の約半分の時間を睡眠(運動不足)状態にあるからと考えられます。高インシュリン血症児を防ぐためにも、夕食後の糖分の多い果物、ケーキ、アイスなどの食べ過ぎには要注意です。

⒈完全母乳はなぜ危険か
医学的に必要が無い限り母乳以外のものを新生児に与えないとするWHO/ユニセフ(1974年)の母乳促進運動を厚生労働省が支援したことにより、日本でも完全母乳・カンガルーケアは多くの医療機関そして妊婦の間に急速に普及しています。しかし、母乳がほとんど出ない出生初日において、完全母乳をする事によって、児を低栄養(飢餓)にする事が、脳神経の発達に害が無いと言う保障はどこにもありません。
完全母乳が危険な理由は、完全母乳と上記の低血糖を促進する複数の危険因子が同時に合併した場合に、低血糖症は確実に増えるからです。完全母乳の利点は数多くあり、出生直後から母乳分泌が良ければ問題ないのですが、血糖値に注意が払わなければ低血糖症の新生児が見逃されているのではないかと懸念します。実際、糖水、人工ミルクを飲ませない産科施設では、多くの低血糖症が見逃されていると考えられます。ケイレン、無呼吸などの異状にきずき、そこで初めて血糖検査を行い、低血糖の治療を始めているのが現状です。発達障害を防ぐためには、低血糖症の早期発見、早期治療ではなく、低血糖症を予防する事が新生児管理の基本です。

2、低血糖症は、正常成熟新生児に多いか?
新生児の血糖検査は、新生児集中治療室(NICU)に入院するような低出生体重児などのハイリスク児では全員に対して行なわれます。しかし、正常に生まれた成熟新生児においては血糖検査を行なう産科施設は一部を除きほとんどありません。ついでに測定された血糖検査で低血糖を指摘される正常成熟新生児は稀ではありません。症状が表れない重度の低血糖症の新生児は、低血糖症があれば早期診断され治療が開始されるハイリスク児より、血糖検査をしていない正常成熟新生児に多いかもしれません。しかも生後3日間、糖水・人工乳を飲んでいない肥満児(高インシュリン血症)に多く認められるかもしれません。自閉症児が低出生体重児よりも正常成熟新生児に多い理由は、正常成熟児は出生直後の体温管理と栄養管理が手薄になっていた可能性が大と考えられます。

3、「3日分の水筒と弁当」説は、科学的根拠なし!
完全母乳を主張する医師・助産師は、赤ちゃんは「3日分の水筒と弁当」を持って生れてくる。だから、母乳が十分に出ない生後3日間は糖水・人工ミルクを飲ませないで、母乳だけで心配ないと言う。しかし、この弁当説は科学的根拠がなく、母親からの栄養補給を断たれた早期新生児にとって迷惑な説である。お産に携わる全ての助産師は、生後3日間の栄養不足は脳の発達に永久的な障害を遺す危険性を有している事を学ぶべきである。
ところで、生後3日間を完全母乳にすると出生時からの体重減少が著しく、また重症黄疸が増えることが分かっている。出生から10%以上の体重減少、新生児の黄疸は生理的現象と安易に考えているが、本当は母乳分泌不足による栄養不足(飢餓)が原因である。科学的根拠のない、間違った「3日分の水筒と弁当」説を、一部の医師・助産師がマスコミを通じて国民に刷り込んだことは重大な社会問題である。厚労省は、「3日分の水筒と弁当」説の誤りを国民に公表し、母乳が満足に出ない生後数日間の栄養不足を改善するよう全ての医療機関・保健所に通達すべきである。

4、低血糖症は自閉症の原因か?
⑦薬剤の副作用:
バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)が血糖値に及ぼす影響
デパケン(抗テンカン薬)は自閉症の危険因子として知られています。妊娠中にデパケンを服用していた患者さんから産まれた兄弟3人がみな自閉症であったという報告があります。これは自閉症の原因を解明するうえで貴重な報告です。デパケンが胎児の脳に直接なんらかの害を与えたのか? それとも、デパケンには新生児の低血糖を引き起こす副作用が知られており、新生児の低血糖が脳に障害を与えた結果なのか? 今のところ、低血糖が自閉症の発生メカニズムに関与しているかどうかの周産期側からの研究はまだ見当たりません。自閉症の原因が明らかになるまでは、デパケンの副作用である低血糖症も自閉症の危険因子の一つと考えて、低血糖症を防ぐための保育管理(予防医学)を積極的に推進すべきと思います。