産湯と乳母は予防医学のはじまり

早期新生児の重症黄疸や低血糖症は、昔から発達障害の危険因子として知られています。しかし、それらの治療法は研究されても予防法についての報告は殆どありません。我国の発達障害児の頻度は約20人に1人といわれ、この20年、とくに増加傾向にあります。福岡市の調査では、この20年間で発達障害児は10倍に増加したと報告されています。発達障害の予防策がここで述べた早期新生児の体温管理(保温)と生後1時間目からの超早期混合栄養法にあると考えています。アメリカの新生児科医Cornblathは出生直後の体温下降を最小限に止め、血糖値を正常に保持することが早期新生児の基本的管理と述べています。

しかし、日本では厚労省が勧める母乳促進運動の普及とともに、赤ちゃんを低体温や低血糖から守る「予防医学」は消えようとしています。いま我国では自然派思考の妊婦さんが増え、自然分娩そして出生直後のカンガルーケアと完全母乳を希望される妊婦さんが増えてきました。しかし、自然には長所と短所がありますが、短所については国民に何も知らされていません。赤ちゃんにとって自然の短所とは、出生直後の分娩室が寒過ぎて低体温になる事、生後3日間の母乳分泌が少ない時に赤ちゃんは低血糖・栄養失調(飢餓)になる危険性がある事です。

昔の産婆さんは、自然の管理の中に予防医学(産湯と乳母)を取り入れて重症黄疸や低血糖症を防いでいました。産湯は現代の保育器の役割を、乳母は母乳が十分に出始めるまでの期間、あるいは母乳が出ない人のために、今日の人工乳の役割を果たしていたと考えられます。「産湯と乳母」、それは産婆さんが見つけた我国における「予防医学のはじまり」だったのかも知れません。
皆様に予防医学の重要性を理解して頂き、当院の生後2時間の保温(保育器内収容:34〜30℃)と生後一時間目からの超早期混合栄養法が世の中に普及する事を切に願っています。 

ここで述べた内容は、日本新生児学会総会(第17回、第18回、第34回、第39回)、母乳哺育学会(2001年、2009年)で発表、日本小児麻酔学会(福岡:2003年)、日本臨床体温研究会(札幌:2004年)で講演したものをまとめたものです。