Medical Tribune 
[2006年3月2日 (VOL.39 NO.9) p.25]  
 
SIDSリスクについて再警告!

過温を避け仰臥位で寝かせる
〔米メリーランド州ベセズダ〕
乳幼児突然死症候群(SIDS)で死亡する乳児の数は,寒冷期に増加する。多くの親は乳児の身体を保温するため就寝時に厚着をさせたり,余分に毛布をかけたりする傾向がある。しかし,米国立小児保健・ヒト発育研究所(NICHD)のDuane Alexander所長は,余分な寝具や厚着はSIDSリスクを増大させる可能性があると警告した。

 
依然として乳児の最大死因
Alexander所長は「SIDSリスクを高めるため,親や養護者は睡眠時の厚着や毛布のかけすぎを避け,室温を上げすぎないように注意すべきである。言うまでもないが,昼寝中も夜間も乳児を仰臥位で寝かせるように留意しなければならない」と指摘している。
 仰臥位睡眠が乳児のSIDSリスクを減少させることが多数の研究で実証された後,過去10年以上にわたり,NICHDはBack to Sleep(仰臥位睡眠)キャンペーンを展開しており,SIDSリスクを減少させるさまざまな方法を勧奨している。避けるべき医学的理由がない限り,乳児には毛布や柔らかい寝具をかけたり敷いたりしないで,固いマットレスの上にじかに仰臥位で寝かせるべきである。

毛布を使用する場合は,乳児の胸部より下方にかけるようにし,毛布の下端はベビーベッドのマットレスの下にたくし込む。ベビーベッドなどには,枕やふわふわしたぬいぐるみを置かないように気を付け,室温は成人が快適に感じる程度に保つ。NICHDがキャンペーンを開始してから,米国におけるSIDSの総体的な発生率は50%以上減少している。
 キャンペーンが浸透したにもかかわらず,SIDSは依然として生後 1 か月〜 1 年の乳児の最大の死因になっており,米国では毎年およそ2,500例が死亡している。SIDSとは生後 1 年以内の乳児の原因不明な突然死で,死亡例の大多数は生後 2 〜 4 か月の乳児に発生している。SIDSの原因は不明であるが,リスクを増大させる要因を減らすことは可能である。

10項目の勧奨を更新
最近,米国小児科学会(AAP)は,SIDSリスクの減少を目的とした勧奨を次のように更新した。
 (1)昼寝を含む就寝時には,常に乳児を仰臥位で寝かせる
 (2)乳児を固い床面に寝かせる(例,安全性が確認されたベビーベッド用のマットレスをぴったりしたサイズのシーツで覆う)
 (3)軟らかい物体,おもちゃ,ふわふわした寝具を睡眠環境から取り除く
 (4)乳児の近くで喫煙しない
 (5)親の寝室にベビーベッドを置くなど,乳児と親が同じ部屋で別々に寝るようにする
 (6)乳児を仰臥位にした後,乾燥した清潔なおしゃぶりを与える
 (7)睡眠中の過剰な暖房を避ける
 (8)SIDSリスクを減少させるという宣伝文句で販売されている商品を使用しない
 (9)SIDSリスクを減少させる目的でホームモニターを使用しない
 (10)斜頭症の発生を予防するため,乳児が覚醒しているときにおとなが目を離さないようにしながら腹ばいにさせる。寝かせるときには乳児の頭の向きを毎回変える。乳児を長時間,自動車のチャイルドシート,キャリア,弾力のあるバウンシングチェアなどに座らせない

死亡率に人種間格差
Back to Sleepキャンペーンが1994年にスタートしてから,アフリカ系米国人の乳児のSIDS発生率は50%近く減少したが,依然として白人の乳児よりも高い。アフリカ系米国人の乳児がSIDSで死亡する確率は,白人の乳児の 2 倍である。
 SIDS発生率の人種間格差を解消するため,NICHDはアフリカ系米国人の団体と協力関係を結んでいる。アルファ・カッパ・アルファ女子学生クラブ,全米アフリカ系米国人女性100人連合,全米有色人種地位向上協会(NAACP)の女性会員の協力を得て,NICHDは2003年にSIDSサミットを 3 回開催しており,SIDSに関する理解を深める目的で全米から数千人が参加した。サミット以来,各団体は米国全土で啓発活動を続けている。最近,これらの団体の代表者が会合を開き,AAPの勧奨の更新と将来的なキャンペーンの方向性について協議した。
 NICHDのYvonne Maddox副所長は,「われわれはアフリカ系米国人の乳児のSIDS発生率を50%近く減少させることに成功したが,やらなければならないことはまだ山積している。昼夜を問わない仰臥位睡眠によりSIDSリスクを減少できることを親と養護者に認識してもらうため,寒冷期間中のSIDSに対する警告を発した」と述べている。
 さらにNICHDは人種間格差を解消するため,米国先住民のコミュニティーにおいても活動している。米国先住民の乳児はSIDSで死亡する確率が白人の 3 倍近くに達している。研究から,北部平原先住民コミュニティーでは,過温がSIDSの最大の危険因子になっていることが明らかになった。NICHDは先住民の団体と提携し,SIDSリスクを減少させるため,彼らの文化に適合した教材の作成と普及に尽力している。
 Back to Sleepキャンペーンに参加している団体はAAP,米保健資源福祉庁(HRSA),SIDS乳児死亡率プログラム協会,First Candle/SIDS連合である。