1998年 7月10日 朝日新聞掲載記事
お産痛くて当然?
 お産の世界に様々な変化の波が押し寄せている。昔ながらの仰向けスタイルは今でも一般的だが、立ったり、しゃがんだり、と好きな格好で、なるべく自然に産もうという動きもひろがりつつある。呼吸を重視するラマーズ法、水中での出産・・・。自分の子供が生まれてくる瞬間に立ち会う夫も少なくない。その上、「痛いのは当たり前」という日本のお産の常識に挑むように、欧米で普及する部分麻酔で痛みを和らげる医療機関も出始めた。だが、麻酔使用は自然出産志向の日本では抵抗感が強い。
 6月末の深夜、福岡市に住む福原美由紀さん(26)は同市内の個人病院の分娩台で目を閉じ、苦しそうに息をしていた。福原さんの口から、「痛い」と声が漏れる。肛門が割れるように痛む。
 久保田史郎院長が産道の中の神経を探しながら、麻酔薬を注射した。2、3分で部分麻酔が効きだした。陣痛のこない時には痛みがない。痛みが来ると「ヒーヒーフー」と息を吐く。見る見るうちに赤ちゃんの頭が見えてきた。
「ふんぎゃー」。へその緒がついたまま、産声を上げる長男の顔をのぞき見て福原さんはニッコリした。「麻酔が効いていておしりや、会陰の痛みはなかったが、陣痛の痛みはあり、出産したという実感はある。」麻酔医でもある久保田院長がドイツなどで実施されている「和痛分娩法」を始めたのは、4年前。友人の妻が痛さを理由に第2子の出産をしぶっていたのがきっかけだ。産道や会陰がゆるみ、赤ちゃんが生まれやすくなるという効果もあるという。
 「母体に注入した麻酔薬が赤ちゃんにほとんど移行しないし子宮の収縮などの自然現象は損なわない。赤ちゃんへの負担も少なく、お母さんの疲労も軽い。」と久保田院長は話す。これまでに約2000人がこの方法で出産したという。