読売新聞
1999年10月4日掲載記事

痛み軽減、満足度アップ
少子化が進む中、満足のいく形のお産を望む女性が増えている。音や照明で痛みを軽減させる試みや、部分麻酔で出産の痛みを和らげる医療機関も出始めた。リラックスすることで痛みが緩和され、安全性も高いことが分かってきたためだ。現代お産事情の一端を紹介する。(本田 真由美)

和痛分娩
麻酔で妊婦に自信
「麻酔で精神的に落ち着け、出産の流れも把握できました。でも痛みは十分あり、自分で頑張って生んだと実感が出来たのが良かったです」東京台東区の渡辺佳子さんは先月末、里帰りしていた福岡市の久保田産婦人科医院で、局所麻酔で痛みを和らげる「和痛分娩法」により、長男を出産した。痛みへの恐怖や年齢による体力的な不安から選んだが、「全身麻酔で意識がないまま生むのはいやだけど、この方法では痛みも感じられると聞いていたので」と話す。
渡辺さんが受けたのは、和痛分娩法の中でも、ドイツなどで普及している「陰部神経ブロック法」。院長の久保田史郎さんは「赤ちゃんが産道を通るときが最も痛いと言われるが、このときに産道と会陰部だけに効く局所麻酔で痛みを取り除く。また、産道の筋弛緩作用にすぐれ、安産効果の大きい方法だ」と説明する。
 部分麻酔による和痛分娩法は欧米で普及している。一般的なのはアメリカやフランスで行われている「硬膜外麻酔法」と呼ばれる分娩法だ。日本でも、北里大病院では、年間約1500件の出産のうち、7〜8割がこの硬膜外麻酔が占める。陣痛が始まるころに、腰部の脊椎内の硬膜外腔に管を通して麻酔薬を注入し、下腹部と腰、産道の痛みを取り除く方法だ。
西島正博・同大産婦人科教授は「痛みのコントロールは母親のわがままとの意識がまだ日本では根強いが、痛みの除去が自信につながり、スムースなお産ができる」と説く。
久保田さんも、九大病院にいたころ硬膜外麻酔をしていた。この方法は、血圧低下や微弱陣痛などの麻酔の副作用に対応するため、効果が消えるまで産婦から離れられない。大病院ならまだしも、開業医には困難と考え、陰部神経ブロック法を選び、6年前から行っている。「痛みを和らげ、満足のいくお産が日本でも出来るのはいいこと」と語る久保田さん。だが、自身が麻酔医で、麻酔の怖さを熟知しているだけに「麻酔の専門医がいる医療機関を選んで説明を十分に受けることが重要です」とアドバイスしている。

”和痛“分娩で出産を実感
経メディカル 1996年7月10日号 掲載記事
久保田産婦人科麻酔科医院 院長 久保田 史郎 氏
「最初に麻酔って」聞いたときは、何も感じられないまま子供を産み落としちゃうのかな、って思いました。でも、先生の麻酔だと、痛みはずっと楽になるのに、ちゃんと陣痛の波を自分で感じられる。いきむタイミングも自分で分かって、自分で出産したんだという実感があります。」出産を終えたばかりの母親が目を輝かせて話す。
久保田氏は2年前から、分娩の際、希望者全員に陰部神経ブロックを行っている、我国の「無痛分娩」の主流は硬膜外麻酔。下腹部と腹、産道の痛みを全て取り除く。ところが、陰部神経ブロックでは、麻酔が効くのは産道だけ。痛みを無くすのではなく、痛みを和らげる、いわゆる”和痛分娩“と言うわけだ。
「お産は最後が痛い」と言われるのは、赤ちゃんが産道を通る時の痛みを指してのこと。それが十分取り除かれるので、「経産婦は『最後が本当に楽だった。前の出産の時と比べたら痛みは10分の1くらいで済んだ』といいますよ」(久保田氏)。硬膜外麻酔で、ときにみられる、血圧低下や陣痛の微弱化も起こらないと言う。
「陰部神経ブロックは、欧州では分娩時の麻酔としてごく普通に行われている。安全性が高く、痛みを軽減でき、出産を実感できる、三拍子そろった手法」と久保田氏はわが国での今後の普及に期待している