無痛分娩が、正しく普及するために
 全身麻酔法は産婦の意識を無くすため“お産のよろこび”を実感できないばかりか、人間の生体防衛機能をも低下させ、嘔吐による誤飲など呼吸管理の面からも安全な麻酔法と言えません。さらに麻酔薬の過剰投与は胎児の中枢神経系に抑制的に働き、分娩直後の児の呼吸抑制のみならず、新生児早期の嗜眠傾向や筋緊張の低下を招き“低体温”をはじめとするその他の障害(低血糖や黄疸などの適応障害)を引き起こす可能性を秘めています。このような観点から、無痛分娩には原則として局所麻酔法を選ぶべきだとする意見が多いようです。
 硬膜外麻酔法は産婦の意識もあり、分娩1・2期の長時間にわたって痛みをとることが可能で、しかも産道の筋弛緩も得られることから理に適った麻酔法といえます。
しかし、本法は麻酔の手技や管理が難しく、麻酔医の少ない我国の現状において、全国的な普及には程遠いものがあると言わざるを得ません。
 上記の理由から、麻酔医のいる一部の施設を除き、分娩1・2期の“産痛”を取るための、誰にでもできる安全な無痛分娩法は今のところ「無い」と言うのが正直な意見です。
 我国では少子化が問題になっていますが、「こんなに楽で、満足できるお産なら、もう一人子供がほしい」と訴える経産婦さんが予想以上に多いのです。 産科麻酔という適切な医療の介入によって、お産から過度の痛みや不安を取り除き、お産は安全でかつ痛くないものだという意識改革をすることが、少子化に歯止めをかけることにもなるのではないかと期待されるのです。
 これからの無痛分娩法は、“お産の痛みをどれだけ多くとることができるかが主目的ではなく、産婦さんがどれだけ満足するお産を体験できるか、つまり肉体的にも精神的にも“満足度”の高い、しかも母児にとって安全なものであるべきと思います。