3)早期新生児に栄養失調はないのか?
 大人には栄養失調という病名はあっても、なぜか“早期”新生児にこの栄養失調という言葉を耳にすることはありません。早期新生児の体重減少のことを一般に“生理的体重減少”と呼んでいます。しかし、この生理的現象と呼ばれるものの一部に“栄養失調”という異常が同時に潜んでいることを認識しなければならないのです。保育管理が十分であったとは思えない時代の1948年に作成されたDancisの体重発育曲線を今日もなお我国の一部の臨床医が参考にしていること自体が著しい体重減少をも当たり前のように錯覚し、生理的現象として捉えているのではないでしょうか。

4)新生児黄疸はイエローカードか?
 早期新生児における低血糖症は大人に比べ症状に乏しく(無症候性低血糖)、また頭蓋内出血は予告なく突然に発症するこが多いために、その発見や治療が遅れ中枢神経系に後遺症を残すことがまれではありません。一方、新生児黄疸は顔色が徐々に黄色になるため、早期に発見し治療することが可能です。我国の新生児管理において、間接ビリルビン値の上昇による黄疸は、一般に生理的現象として当たり前のように考えられています。そのような黄疸をこれまでのように生理的現象とするのか、それとも イエローカード “危険因子”として受け止めカロリー不足と考えるかは赤ちゃんにとって重要な問題です。なぜなら、高ビリルビン血症(黄疸)をカロリー不足の指標のひとつとして受け止めることは、栄養不足にともなう低血糖症やビタミンK欠乏による頭蓋内出血をも予防することにもつながると考えられるからです。

5)正常・成熟児にもRecovery Roomを!
 我国の空調された分娩室の環境温度(24〜26℃)は大人にとって快適です。しかし、出生直後の羊水でぬれた裸の赤ちゃんにとっては、“寒すぎる”ということがこれまでの研究によって明らかになりました。すなわち、分娩を境とした胎内と胎外の約13℃の“環境温度差”が赤ちゃんにとって“寒冷刺激”となり出生直後の“低体温”を招く原因になっていたからです。
 未熟児医療の進歩は、この体温管理と濃厚な栄養管理によってもたらされたことは衆知の通りです。正常・成熟児においても同様の管理、つまり予防医学に基づいた積極的な管理が低血糖症・重症黄疸(核黄疸)・ビタミンK欠乏性出血症(頭蓋内出血)など、中枢神経(脳)に悪影響を及ぼす危険因子を著しく減少させえることを、当院で出生した約8000人の新生児のデータは物語っているのです。
 正常成熟児にも“リカバリー・ルーム”を、つまり“正常をより正常に”という医療理念(予防医学)こそが、予防可能な障害児の発生を未然に防止できるのではないかと期待されるのです。
 哺乳動物にとって、母乳育児の”素晴らしさ”については誰もが認めるところです。しかし、母乳の長所に気を取られる余り、短所を見失う傾向にあってはならないと思います。母乳育児のもつ長所と短所をよく理解し、赤ちゃんにとって安全で、母にとって“ゆとり”ある哺育をすること、つまり母乳の長所を活かし短所を補うこと“自然と科学の調和”そのバランスをいかに上手に舵取りするかが、21世紀における新生児医療のさらなる発展につながることになるのではないでしょうか。