SIDSの悲劇、なぜ繰り返される?

SIDS(学会)の3つの問題点:
(1)SIDSは原因不明の「病気」と定義している事
(2)SIDSの危険因子に「着せすぎ・暖め過ぎに注意」が無い事
(3)「人工乳」がSIDSの危険因子であるかの様な発表をしている事


(1)SIDSは原因不明の病気である。
SIDSは「病気か事故か」まだ分かっていない。SIDSの特徴は、睡眠中の死亡、1歳未満の乳幼児に発生、寒い冬に多い、の3項目が指摘されている。何故、寒い冬に多く発生するかを解明する事が、SIDSが病気か事故かを決める鍵となる。SIDS学会は原因不明の病気と考えているために、病気・死因を見つけ出すための研究が病理学者・法医学者らを中心に行なわれている。厚生労働省SIDS研究班(平成19年2月)が作成した乳幼児突然死症例 問診・チェックリスト、カルテ保存用紙および法医・病理連絡用紙を見る限り、SIDSは寒い冬に何故多く発生するかを解明する動きは見当たらない。帽子・靴下・毛布などの着せ過ぎの有無、電気カーペットなど暖房器具使用の有無、死亡発見時の児の状態:発汗の有無、高体温(うつ熱)の有無など、環境温度・体温の異常を調べるためのチェック項目が問診リストに見当たらないのが問題である。SIDSは寒い冬に多い、その理由を解明しない限りSIDSの真の原因は分からないままである。

(2)SIDSの危険因子に「着せすぎ・暖め過ぎに注意」が無い事
米国立小児保健(NICHD)は、睡眠時の厚着や毛布のかけすぎを避け、室温を上げ過ぎない様に注意すべきと警告している。平澤恭子医師(東京女子医大)は、帽子・靴下を脱がせることなど、衣服や環境温を調節することによってSIDSの発生頻度を少なくすることが可能とApricaに報告(2004年9月発行)している。厚労省が「着せすぎ・温めすぎ」をSIDSの危険因子の一つに認定しない限り、事故死を原因不明の病気と診断され、SIDSの悲劇は繰り返されるであろう。

(3)「人工乳」がSIDSの危険因子であるかの様な発表をしている事
日本では、人工ミルクがSIDSの危険因子であるかの様な内容が母子健康手帳に記載されている。米国小児科学会の発表にはSIDSの危険因子に人工乳は無い。
問題点:
人工乳が赤ちゃんに危険であるかの様な印象を国民に与えたために人工乳を敬遠し、完全母乳にこだわる妊産婦さんが増えてきた。分娩直後から母乳が十分に出るのであれば問題ない。しかし、赤ちゃんが必要とする最低限のカロリー(基礎代謝量)の母乳が出るのは早くても生後3日目以降である。熱産生のために最もカロリーを必要とする生後24時間以内の母乳分泌は滲む程度でカロリー源としてはゼロに等しい。
生後早期の赤ちゃんに糖水・人工乳を全く飲ませない場合、低血糖・低栄養の飢餓状態に陥るのは容易に予想できる。赤ちゃんは3日間の水筒と弁当を持って生まれてくる。だから、糖水・人工乳は飲ませなくても良い。この科学的根拠の全く無い言葉は、どれだけ多くの赤ちゃんを飢餓状態に陥れたのだろう。我国では生後30分以内のカンガルーケアが推進されているが、赤ちゃんが出生直後に「低体温・低血糖」に陥った時に、糖水・人工乳を飲ませなかった場合、低血糖が進み脳に栄養障害を来たす児が増える事になる。「人工乳はSIDSの危険因子」とするならば、人工乳がなぜ危険かを説明に追加すべきである。

■ 第13回日本SIDS学会学術集会(会長 高嶋幸男教授)が、福岡市で開催された。
SIDS診断基準検討委員会報告の席で、上記の(1)・(2)・(3)の問題点について質問した。またSIDS危険因子の中に、「着せすぎ・暖め過ぎに注意」を、追加公表していただける様にお願いをした。(平成19年3月17日)